世界中で猛威をふるっている新型コロナウイルス対策で、台湾の蔡英文総統をはじめとする女性指導者が存在感をみせている。
共通するのは、迅速な対応と、危機に際して人々の不安に寄り添い、安心感を与えるメッセージを、丁寧に発していることだ。
世界がまだ新型ウイルスの脅威を十分に認識していなかった1月22日、台湾の蔡氏は「17年前、われわれは重症急性呼吸器症候群(SARS)の嵐を一緒に耐えた。われわれには十分な経験と準備、挑戦に立ち向かう十分な自信がある」と呼びかけた。蔡政権の拡大防止に向けた措置は、120以上に上った。
台湾は5月5日時点で死者を6人にとどめている。素早い対応が感染拡大を抑えた好例だ。しかも台湾は中国本土と近く、世界保健機関(WHO)への参加もはばまれている中での成果だった。
ニュージーランドのアーダン首相は非常事態を宣言した3月25日、国民にこう呼びかけた。
「あなたは働いていないかもしれません。でも仕事がなくなったという意味ではありません。あなたの仕事は命を救うことです。感染の連鎖を断ち切りましょう」
自宅にとどまることの意義を訴えたもので、国民に大きな共感を広げた。
ドイツのメルケル首相は「渡航や移動の自由が苦難の末に勝ち取られた権利であるということを経験してきた」と述べた。旧東独の出身者だからこその説得力である。そのうえで「(移動の制限は)絶対的な必要性がなければ正当化し得ない。しかし今は命を救うためには避けられないことなのです」と訴え、医療従事者らへの感謝も口にした。
両国ともコロナによる被害が比較的少なく抑えられている。リーダーの言葉の力がこれを助けたことは疑いない。
日本でも東京都の小池百合子知事が連日記者会見を開き、自らの言葉で外出の自粛などを呼び掛けている。「ステイホーム週間」などのキャッチフレーズは確かに耳に残るが、基礎データの開示などに不満が残る。
国政の場からは、女性閣僚や政治家の言葉がほとんど聞こえてこないのはどうしたことか。海外の女性首脳の発信力に学び、一層の奮闘を期待したい。
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2020年5月6日付産経新聞【主張】を転載しています